将棋の永世名人として活躍された大山康晴氏は、『名人は得意技があるようではまだダメである。名人に定石なし。相手の指し手に自由自在であるようでなければならない』という意味のことを語っています。必勝の得意わざにも捕らわれてはならないと言うお話には、毎日の生活において教えられるものがあります。
さて2009年1月23日、USエアウェイズ旅客機が、ラガーディア空港を離陸した直後鳥の群れに突っ込み、左右のエンジンに鳥を吸い込み、エンジン停止。その5分後の午後3時31分にマンハッタンを流れるハドソン川に不時着しました。同機を操縦していたチェスリー・サレンバーガー機長は、「コックピットからは炎は見えませんでしたが、エンジンの音や振動、鳥が焼けるにおいで、エンジンがダメージを受けたことを理解した」と会見(ニューヨーク市役所)で語っています。元空軍パイロットで操縦歴40年以上のベテランのサレンバーガー機長は、ラガーディア空港に戻るか近くのニュージャージー州の空港への着陸を検討して、機の落下速度等を考慮すると、眼下のハドソン川しかないと決断して着水しました。その後の機長の判断行動も見事でした。
専門家の話では、ニューヨークは気温マイナス8度のときで、水中に10分いたら死亡していただろうとのこと。CNNのテレビに出た男性客の話では、「女性や子供を優先するなど乗客同士も助け合っていた。心温まる光景だった。」と振り返っていました。機長は沈みつつある機内で2回、機体内に残された人はいないか確認して最後に機外に脱出。155人の乗客の救出に成功したのでした。
サレンバーガー機長は、「訓練してきたことをやっただけ。自慢も感動もない」と語っています。もし、近くのニュージャージー州の空港への着陸を試みるか、出発したラガーディア空港に帰るかの試みをしていたら、最善の結果は生まれなかった可能性が専門家筋では指摘されています。最善手を決定するのに、155人を救うために、最高の決定と行動が行われたと思います。そこには、何ものにもとらわれない冷厳な意志の力があったのではないでしょうか。
総裁谷口雅宣先生は、御著書『日々の祈り』の中で、次のように説かれています。
〝(前略)私は、「一つ」をおろそかにしないのである。「一つ」は「無限」への階段である。一段を踏み外すものは十段に達することができない。基礎をおろそかにして応用は不可能である。与えられた場で最善を尽くすことで、次なる飛躍が初めて可能となるのである。(後略)〟(同書180頁)
「一つ」「一つ」をおろそかにしないで、訓練を続け重ねて来たサレンバーガー機長なればこそ、最善の行動がとれたのでしょう。私達の運動も、「日々の祈り」の中に、神様の導きをいただき最善手を生きる、よろこびあふれる、「神・自然・人間」の大調和実現の運動でありますように、皆さまとともに前進していきたいと思います。
<大和島根平成30年2月号より>